デジタル1眼レフによる天体写真 


1.アストロカメラとしてのデジタル1眼レフ
2.撮影
3.画像処理
  デジタル一眼レフにおけるフラット補正
4.プリント
5.もどる

その他  デジタルカメラの縦スジの除去 2010/02/20


1.アストロカメラとしてのデジタル1眼レフ

 @.デジタル1眼レフの諸元

このホームページの天体写真の撮影で使用したデジタル1眼レフ

カメラ名 アストロカメラ名 アストロカメラとしての改造 画素 CMOS(mm) 写野(ε250C)
Canon EOS Kiss Digital IDAS HEUIB フイルター換装 3072×2048 22.7×15.1 1.5°×1.0°
Canon EOS 5D IDAS 5D-AP IDAS UIBARUフイルター換装 4368×2912 35.8×23.9 2.4°×1.6°
Canon EOS 40D SEO COOLED 40D IDAS UIBARVフイルター換装・冷却改造 3888×2592 22.2×14.8 1.5°×1.0° 売却
Canon EOS 6D SEO-SP4 改造 5472×3648 35.8×23.9 2.4°×1.6°


 A.デジタル1眼レフの特徴

   EOS Kiss Digital

未改造機により撮影されたプレアデスなどの青い星雲は十分な写りをする。しかし、Hα線(波長:656.3nm)の輝線で輝く赤い星雲はまったく写らないこともないが、やはりの感度が低い。そこでローパスフイルターを取り外し、強調タイプのHEUIBフイルター(IDAS)をC-MOSの前面に換装改造した。一般撮影では、オートフォーカスでピントがそこそこでる。カラーバランスはわずかに赤よりになるが一般撮影では期待しないほうがよい。
 天体撮影ではで光る星雲がよく写るようになった。カラーバランスが天体用として良好である。カラーバランスの良さは天体写真でも重要で、カラーバランスがくずれると画像処理量も増え画質が低下する。フイルターの透過率のせいか感度も若干高くなった。HEUIBフィルターの特徴として輝星のまわりにかなり大きなゴーストが出る。これを承知で改造を依頼したが輝星では画像処理で簡単に修正はできない。Kiss Digital で撮影した星像をチェックするとわずかに方ボケを起こす。5Dでも40Dでも見られない現象なのでカメラの精度の悪さであろう。Kiss Digital はローパスフィルターをすべてとりはずしHEUIB1枚に換装してあるためか、5D,40Dのカメラの中で星像が最もシャープに小さく写る。


   EOS 5D

ローパスフイルターをHα線が透過する UIBAR-Uフイルター(IDAS)をC-MOSの前面に換装改造した。改造はIDASに依頼し5D-APとなる。この改造の結果、オートフォーカスでピントがそこそこでるがカラーバランスは赤よりになる。一般撮影ではVLC-34 フィルター(IDAS)を使用してオートホワイトバランスで撮影可能である。VLC-34フィルターが装着できないSIGMA 15mm F2.8 EX DG FishEye ではFUJIFILMのCC-C50 を取り付けるとオートホワイトバランスでそこそこ撮影できる。天体撮影ではHα線で光る星雲がよく写るようになった。HEUIBの換装改造で見られた輝星のまわりの大きなゴーストは見られない。35mmサイズのC-MOSでの天体写真は直焦点撮影でも画像の高画質化に対してかなり有効である。しかし、大きなC-MOSの割には5Dのミラーボックスの内径が小さく、これによるケラレは850mm F3.4の直焦点撮影では重大な問題となる。フラット補正でも補正するが、光がC-MOSに当たらないことにはどうしようもない。そこで、
(@)5Dのミラー背面のケラレを最小限にする改造(誠報社)。
(A)カメラマウントの内側によるケラレを最小限にする改造(誠報社に特注)。
を行った。効果が大きいのは(@)であったが完全にケラレを取り除くことはできない。この改造の結果、撮影時のミラーの背面の傾きが変わったため、写野の外の星の反射光が線状に写りやすくなった。(A)は画像の四隅のケラレを少なくすることに効果があった。これ以上の改善は物理的には不可能であるので、フラット補正を行って補正する。
 天文用にはダークノイズが安定しておらず、単純なダーク減算では十分に処理できない。特に気温が高いとこれが顕著であり、夏場(気温15℃・ISO800・12min)での使用はきびしい。これは、天体撮影時の画像(ライトフレーム)のダークノイズとダーク減算に撮影した(光を遮断して撮影した画像)ダークフレームのダークノイズが異なってしまうためにノイズが十分に除去できないためである。5DのノイズリダクションをONにしても同じ現象がおこるので注意が必要である。おそらく撮影中にC-MOSの温度が変化するためにこのような現象が起きるのではないかと考えている。ノイズの特性として

(@).輝点ノイズ
ダークフレームごとに輝点ノイズの位置は非常に安定している。しかし、同じ位置に生じる輝点ノイズの強さがダークフレームごとに異なっている。1番目に撮影した画像の輝点ノイズは少ないが、連続して撮影すると輝点ノイズどんどん増加していく。輝点ノイズはC-MOSの温度にかなり依存していると思われる。

(A).アンプノイズ
12分程度の露出ではどのフレームにも安定して現れていてる。すなわち、連続して撮影した画像を調べると、アンプノイズはほぼ同じように現れる。

(B).ランダムノイズ
Kiss Digitalよりはるかに少なくコンポジットフレーム数を増やすことによりかなりランダムノイズを小さくできると期待される。
結果的にダーク減算を注意深く行えば、Kiss Digital よりはるかに高画質な画像を得ることが可能である。

(C).その他
長時間露出のとき、EOS 5Dのファインダーからの光漏れはかなりあり、アイピースキャップは必需品である。明室で撮影したダークフレームは12分の露出で光漏れのために真っ白になってしまうほどである。

   EOS 40D(SEO COOLED 40D)

ローパスフイルターをUIBARVに換装と冷却改造をおこなったカメラで、CMOSを外気温より約25℃冷却する。気温の高い夏でもノイズが非常に少ない画像を得ることができる。UIBARVはUIBARUと比べカラーバランスのくずれが小さい。ライブビューはピント合わせには絶大な効果があり、非常に使いやすい。EOS Kiss Digital のHEUIBフイルター換装機に見られた輝星のまわりの赤いゴーストが見られたが、フィルターの無償交換の対象になった。交換後はゴーストはかなり減少した。


EOS6D(SEO-SP4)

ノイズの少なさやゴーストなど満足度の高いカメラである。EOS5Dと比べ技術的な進歩を感じる。不満な点はカメラの特性か、長周期の色むらが見られる。画像を強調処理するとこの色むらが障害になってくる。

2.撮影(ε250cの場合)

 @.ピント合わせ

ロンキー法
 Kiss Digital 用にピント位置を合わせたロンキーテスターで合焦し、5Dで撮影する前に若干合焦位置をヘリコイド目盛りで補正する。Kiss Digital(HEUIB)と5D-AP(UIBAR−U)のピント位置は若干異なっている。改造機のEOS 5D(5D-AP)と未改造のEOS 5Dのピント位置はほとんど変わらなかった。

ライブブビュー
 40Dはライブビューでピントを合わせる。ライブビューはピント合わせには絶大な効果があり、非常に使いやすい。ただし、ε250Cのヘリコイドはピッチが1mmと細かいのでピントの山がつかみにくいので慣れが必要である。EFレンズの組み合わせでは、パソコンでライブビューを使うと、PC上の操作でピントも合わせられるので非常に使いやすい。最近はこの方法でピント合わせをおこなっている。なお、40Dと5Dのピント位置はほぼ同じである。
 
ハルトマン板
 
鏡筒に8点の小さな穴を開けたハルトマン板(キャップ)を付け、インフォーカスとアウトフォーカスで明るい星を撮影した画像を解析してフォーカス位置を決定する方法である。PCで処理しベストフォーカスを決める。ライブビューが利用できないKissDや5Dはこの方法でピント合わせをおこなっていたが繁雑なので使用することはほとんど無くなった。



バーティノフマスク
 鏡筒にバーティノフマスクを付け、回折像を見てピントを合わせる方法。極めて容易にピント合わせができる。現在はコーワPROMINAR 500mm F5.6 FL のピント合わせはこの方法を使っている。回折像は1等星を使ってもライブビューではわかりにくいので5秒露出で撮影した画像を見ながらピント合わせを行う。このときフライアイルーペという古いソフトを復活させて使用。ただし1〜2等星の明るい星を使うことが望ましい。

  


3.画像処理

 @.ダーク減算

  ダーク減算の目的は、撮影時の温度、ISO感度、露出時間に依存する輝点ノイズのように規則的に現れるノイズの除去とフラット補正を正確に行う前処理をすることである。
  この処理は自作ソフト(CompositeEasy)でおこなう。RAW現像前のベイヤー配列のままライトフレームからダークフレームを減算する。5D の場合は、複数フレームを連続して撮影すると輝点ノイズが増加するので、各ライトフレームに合ったダーク減算をするようにダークフレームを最適化して行う。この方法はダーク減算後のノイズを最小とするようなダークフレームを算出するようにアルゴリズムを考えた。気温の高い夏の撮影では必須である。5D以外にも冷却していないデジタル一眼レフでの天体写真でも有効である。単純なダーク減算はRAPやStellaImageで行える。ダークフレームは多ければ多いほどよいが、ライトフレームとダークフレームの撮影と同じ条件、すなわち温度とISO感度、露出時間を同じにすることは、もちろんのこと、撮影のインターバルや撮影枚数も同じにする。

 A.フラット補正

  フラット補正の目的は、光学系のケラレなどによる周辺減光やピクセルごとの感度ムラ、CMOSなどについたゴミの除去を行うことである。
  ダーク処理後、ベイヤー配列のまま自作ソフト(CompositeEasy)によってフラット補正行う。フラット補正はライトフレームをフラットフレーム(均一の光で輝く面を撮影時と同じ光学系で撮影した画像)で除算することによって行える。除算してフラット補正をするためには「ライトフレーム及びフラットフレームのR(GB)値が、光の強度に対してリニアーである」ことが大前提である。このため、ライトフレームもフラットフレームもダーク減算が必要である。5Dに関してリニアリティーを調べるとほぼリニアーであった。
 フラット画像は明るさの一様なスクリーン等を天体撮影時と同じ条件で撮影して得ることができる。

 (1).天井や壁を光源で照らして撮影。
 (2).EL発光パネルを鏡筒の前に置き撮影
 (3).青空を撮影。
 (4).光害地で夜空を撮影
 (5).LED フラットジェネレーターを撮影

を試してみたが、最も良い結果が出たのは(5)のフラットジェネレーター撮影であった。LEDを光源としておりカラーバランスが良くフィルターで調整する必要がない。フラットフレームにノイズがあると画像のSNが悪くなるのでなるべく多くのフレームをコンポジットしなければならない。フラットフレームのRGB値も大きい方が計算上の精度がよいが、ライトフレームのRGB値に近いほうが良いと思われる。リニアリティーさえ良ければ、ライトフレームのRGB値のヒストグラムとフラットフレームのRGB値のヒストグラムは異なっていても原理的には良い。なお、(1)と(2)の方法では鏡筒に拡散板を使用したが、(3)では使用していない。鏡筒開口部に拡散板を置くと天体撮影時と光の散乱が微妙に異なるのであろうか?
 ミラーボックスのケラレの少ないKiss Digital や 40D では非常に良好にフラット補正ができるが、5D のミラーボックスによるケラレのフラット補正は非常にやっかいである。フラット補正は自作ソフト(CompositeEasy)でおこなう。その他にRAP2 や StellaImage で行える。

※銀塩フイルムの写真濃度Dと光の強度 I はリニアーではない。  

 B.RAW現像 

撮影後に出力されたRAWファイルのデーターはベイヤー配列であるので、画像を得るためにはRGBに変換しなければならない。RGBに変換するとファイルサイズは3倍になる。RAWファイル(CRW/CR2)はAdobe DNG Converter でDNG ファイルに変換する。自作ソフト(CompositeEasy)でDNG ファイルを読み込み、ダーク減算、フラット補正後に Adobe DNG ファイルに書き戻す.。この処理を行うことができるソフトは自作ソフト(CompositeEasy)と RAP2 がある。

DNG ファイルは PhotoShop CS3 で読み込みRAW 現像を行う。このRAW現像は優秀で使いやすく、天体写真ではホワイトバランスと黒レベルを調整するだけで良い。カラースペースはsRGBかAdobeRGBを必ず設定する。撮影時の設定は任意でもここで設定すればよい。コンポジット後にさらに画像処理を行う。

 C.コンポジット

自作ソフト(CompositeEasy)またはPhotoShop によりRAW現像後の複数ファイルをコンポジットする。PhotoShopのレイヤーを使用してコンポジットする場合、1番目の画像を 100% 2番目を 50% 3番目を 33% ・・・・ N番目を (1/N)*100% とすればよい。コンポジットをトーナメント方式でおこない、画像の枚数を2,4,8,16・・と限定した方法は使う必要がない。この処理の目的はランダムノイズの軽減である。自作ソフト(CompositeEasy)では各フレームの位置のずれの補正や人工衛星の除去も行う。最近、人工衛星の数は増加し、必ずと言って良いほど人工衛星が写ってしまうので最低3フレームは撮影して人工衛星を自動的に除去する。

 コンポジットの効果 ISO800 EOS 40D     

 D.PhotoShop による画像処理

PhotoShop CS3 によってレベル補正、トーンカーブの調整、色収差補正、必要によってノイズの低減を行う。ε250Cの旧補正レンズの色収差は銀塩フイルムでは全く気がつかなかったのだが、5Dのデジタル画像では明らかに存在が確認できる。色収差はPhotoshop CS3の「色収差補正」によってきわめて良好に補正ができる。ε250C用デジタル対応補正レンズの色収差は明らかに小さくなっていて補正の必要はない。ノイズリダクションは Neat Image を使用することが多い。

 E.シャープニング

目的によってPhotoShopのアンシャープマスクやRegistax 5 のウエーブレット変換でシャープニングを行うこともある。強い処理をかけるとバックが荒れたり、星の回りにリングができるので試行錯誤したりマスク処理をして星やバックに処理がかからないようにする。下のM51の画像は15分×8コンポジット画像とそのシャープニングした画像である。マスクは使用していないので星の回りに黒いリングができている。



 F.その他

自作ソフト(CompositeEasy)を用いた画像処理方法を述べたが、RAP2やStellaImageを使用しても同様な処理ができる。自作ソフトにこだわった理由は、EOS 5Dのダーク減算の最適化を行うためである。この処理を適用しなければ5Dによる deep Sky Astro Photograph は困難である。

4.プリント

プリンター インク 最大プリントサイズ
EPSON PX-G900 顔料 A4 純正プリンタープロファイルでほぼ良い仕上がりになる。プリントの変色がきわめて少ないので扱いやすい。天体写真用としては非常に扱いやすいプリンター。
Canon Pro9000 染料 A3ノビ・半切 純正プリンタープロファイルでは精度が悪い。使いこなすためにはプリンタープロファイルを自作しないと天体写真には使えない。シャードー部の微妙な階調を表現でき、PX-G900より星雲の淡い部分のプリントには威力を発揮する。ニュートラルグレーにしたいバックが緑カブリをおこすことがあり、ジャジャ馬的なプリンターの印象がある。