光害地の自宅で撮影    2025/04/03


ドーム設置

自宅の外構工事にあわせて協栄産業株式会社のGFRP2.0を設置した。GFRP2.0はFRPで作られた直径2m、質量 98kg の小型軽量ドームである。このドームはスリットの開閉は手動である。またドーム回転は電動のオプションがあるが正転・逆転のスイッチだけでインターネット天文台としては適していない。しかし自宅からドーム内のPCを遠隔操作してできるだけドーム内は長時間無人で撮影ができるようにしたいと考えた。遠征での撮影は車内で野外のPCを遠隔操作しているのでそのシステムをそのまま使用する。ピラーはタカハシJ-S ピラーを固定する。遠征用に使っていたものだが遠征用には軽量カーボン三脚を使用することにした。


コンクリート基礎は業者に依頼した。大きさは 2.2m×2.2m

EM100の極軸設定
北側に自宅があるため北極星は見えない。PHD2のドリフトアライメントで行った(FC60NZ+QHY5LⅡ)


μ180+EM100赤道


Kowa PROMINAR 500mm F5.6 FL+EM100赤道儀



ε250c + JP赤道儀
鏡筒やフードはドームと干渉しないものの2mドームでは限界。撮影準備ができたら自室からPCを遠隔操作する。


オプションの電動回転装置(ソフトの開発中)

電動回転装置はコントローラーのボタンでドームを正転と逆転する装置である。これを自己責任でPCでコントロールできるように改造した。ASCOM 対応でないのでソフトウェアを自作してPCをリモートデスクトップで家の中から操作する。撮影中に天体がスリットからずれてくると自動でドームが回転する。これで長時間の撮影が可能になる。


ドーム回転ソフトウェア
紫のボタンは1クリックでドームを一定の回転角を回転させる。リモートデスクトップの反応が悪いときに有効である。最小回転角はドーム一周 360°として0.1°であるが精度は±0.2°。


自動ドーム回転制御

天体の赤経赤緯(2000年分点:平均位置)はプラネタリーソフトSuperStarⅣやステラナビゲータから転送する。または視位置を直接入力する。
現在の時刻から視位置とLSTを計算する。LSTとは地方恒星時(観測地で南中している赤経の値)である。

  時角=地方恒星時-赤経

撮影を開始する前に「ドーム制御スタート」ボタンを押すと地方恒星時、視位置と時角、方位角をリアルタイムで計算する。スリットと望遠鏡の方位角のずれが設定値より大きくなるとドームを自動で回転させる。天体の位置によるが60秒ごとに回転角をチェックしてドームの回転モーターの回転時間が 500m秒以上になったらドーム回転をさせる設定で、6~8分ごとに回転をして回転角は約2.5°程度であった。
※ドーム内視差とは光学系がドーム中心にない場合の天体とスリットの方位角の差である。視差は赤道儀の不動点位置、不動点から鏡筒(光軸)までの距離、天体位置、鏡筒が赤道儀の西側か東側か、ドーム半球の中心位置から計算する。計算は複雑で何回か修正しながら完成させた。天体を自動導入して計算したスリット方位角にスリットを向けたときドンピシャになったときは感動ものであった。

スリットの向いている方位角はエンコーダーがないのでドーム内側に一周360°の目盛を付けた。これをWebカメラで読み取る。方位角目盛はプリンターの写真用紙に目盛を印刷して両面テープで貼り付けた。用紙の伸縮があり、貼り付けたときには全周で1°分の目盛が余ってしまった。つまり一周359°になってしまった。乾燥した日が続いて1ヶ月ほどたってよく見ると紙のつなぎ目に隙間が見られた。用紙が縮まったのである。再び隙間を埋めるように貼り直すと一周360°になった。梅雨や夏はどのようになるのであろうか。何かいい素材はないのか物色中。またFRP製のドーム内壁は結構でこぼこで精度良く印刷しても無意味かもしれない。なお、ここでは方位角は南を0°として西回りを+としている(一般的には北を0°とする)。
目盛の1°は用紙上で17.5mm程度なのでドームスリットの方位角制御には十分な精度である。Webカメラ用の照明はLED照明(USB)を使用。ドーム制御用のPCで回転を制御して総露出時間 120分の撮影テストの結果は良好な結果を得た。
撮影中のドーム回転の振動は焦点距離 350mmや 850mmではガイドグラフを見る限り問題ない。焦点距離を長くして惑星や月の撮影での影響は未検証。


ドームの電動回転装置
右の黒い箱に Webカメラと目盛の照明装置が入る


ドームの運用と課題

ドームのメリット

・赤道儀が設置されているので望遠鏡の稼働率が上がる。
・自宅から遠隔操作するので体の負担が少ない。撮影中は寝る。
・トラブルがあってもすぐ対応できる。
・赤道儀を入れ替えたときの極軸設定は PoleMarker を使用した。極軸設定精度は思いの外良好で、ドリフトアライメントを行わなくとも写野回転は今までおこっていない。
・望遠鏡は結露しにくい。
・風の影響を受けにくい。
・風の影響か地形、季節の影響か、遠征で撮影した画像より星像が小さい画像が多く撮影される。
・6月中の気温28℃のときドーム内は34℃であった(気温36℃のときドーム内は 41℃であった)。直射日光が当たらなくなってからスリットと鏡筒のキャップをとると撮影準備中(20時頃)には鏡筒が気温になじむ。
・光学系や赤道儀の調整に時間を多く使える。今まで、自宅で調整したくても機材を全部出してからの調整はめげてしまう。

課題

・近隣のLEDの照明光がスリットから入り込む影響が意外と大きい。
・ドーム内の湿気、夏の高温などが赤道儀や望遠鏡へ及ぼす影響。鏡筒内の乾燥剤は交換を怠らない。
・夏場の蚊の侵入(ハチも心配)。現在は蚊取り線香(煙の出ないもの)だけでOK。
・光害地の撮影ではどこまで実用化できるか。

現在の対策

・ドーム内であっても望遠鏡には必ずカバーをかける。雨漏りはないが風によって埃が侵入する
・ドーム制御用パソコンには必ずカバーをかける。埃対策。
・雨が長期間予測される場合は望遠鏡やPCは避難する
・雨の侵入のチェックを怠らない。コーキングのメンテナンスは時々必要か?

これまでに経験したことや感想

・台風を経験していないが雨漏りは無い。
・観測室の下面の平面性は悪く、コンクリート面に対して最大1cmほどの隙間ができる。コーキングは必須である。設置後すぐにコーキングの不良で隙間から雨水が侵入した。この対策に時間を多く費やした。現在はかなりの雨量でも水の侵入は無い。
・コンクリートの上には防水シートを敷いた。その上には段ボールを広げたものをしいてさらにその上にジョイントマットを敷いた。
・防水シートの下面(コンクリートとの接触面)は水滴が付着することがある。コンクリートの水分が付着したものと思われる。
・防水シートを適当に置いたらシートのない部分(結構広かった)から水滴が段ボールについてカビの発生を確認。以後隙間なく防水シートを敷いた。以後トラブルは無し。
・撮影が終了したらカメラは持ち帰る。天気予報で大雨の予報が出たらレデュ―サーや電子機器は自宅へ避難。
・電源は基礎をつくるときにドーム内に設置しておけば良かった。現在は自宅の外用コンセントから使用時に電源コードを引いている。
・電動回転装置の音はドーム内では音が球面に反射して大きく感じたが、外では気にならない程度で近隣への騒音は発生しない。
・電動回転装置の振動はガイドグラフを見る限り影響はほとんどない。
・夜間ドーム内にいると近くの道路を走る車の音がスリットから入り球面で反射して良く聞こえる(うるさくはない)。赤道儀のモーター音もよく聞こえてキャリブレーションの音の変化もわかる。
・近くの道路の歩道を通行するとドームが見えるので時々これは何かと聞かれる(市の納税担当者まで来た。特に固定資産税は発生しないみたいだが。)
・FRPからの臭気はやがてなくなるらしいが、6ヶ月経過した現在まだある。スリットを開けると気にならないが。
・FRPからの臭気は1年3ヶ月経過してまったくなくなった。


ドーム内でε250Cの光軸調整


PoleMaster ではなく PoleMarker    
PoleMaster の替わりに取り付ける。レーザーポインターのレーザー光をドーム内壁に照射する。極軸を回転して光軸が合っていることを確認したら印を付けておく。次回からこの印を使い極軸を合わせる。